初代Walkman TPS-L2と付属ヘッドホンのMDR-3L2。 |
1979年以前、携帯音楽プレーヤーは世の中に存在しておらず、家の外でヘッドホンをつけて音楽を聴くという文化もなかった。移動中に音楽を聴くために1.7kgのカセットレコーダー「TC-D5」(カセットデンスケ)を持ち歩いていた当時の名誉会長 井深大氏が、コンパクトなモノラルカセットレコーダー「プレスマン」に再生だけでいいからステレオ回路を付けて欲しいと要望したことから、コンパクトなステレオカセットプレイヤーの開発が始まったという。
カセットデンスケ「TC-D5」、プレスマン「TCM-100」、初代ウォークマン「TPS-L2」の大きさ比較。 |
ベースとなったプレスマンTCM-100(中)とTCM-100B(右)との比較。形だけでなくボタンの配置もほぼ同じ。特にブラック(TCM-100B)がウォークマンっぽい。ちなみにプレスマンの赤いボタンは録音ボタン。 |
録音機能を外すことに懐疑的な声がある中、再生専用と割り切る英断がなされたその機器は、若手スタッフの発案で「ウォークマン」と名付けられた。色は若者のブルージーンズをイメージしたという青(メタリックブルー)。別部門で「H・AIR」というシリーズとして開発されていた軽量ヘッドホン「MDR-3L2」が付属することとなった。
当時の会長 盛田昭夫氏の号令により商品化が決定してわずか4か月後の1979年7月1日、ウォークマンは発売された。発売前のプレス発表では反応が芳しくなかったこともあり、発売当初こそ売れ行きが思わしくなかったものの、営業の努力の甲斐もあって、2か月で初期ロット3万台を売り尽くし、半年間品不足が続くヒット商品となった。その後、ウォークマンは幾多のモデルチェンジを繰り返しながら、カセットタイプだけでも2010年の販売終了までに全世界で累計2億2000万台出荷され、デジタルオーディオプレーヤーやスマートフォンまで続く携帯音楽プレーヤー市場を作った。
和製英語「Walkman」に抵抗感のあった海外販売会社では、「Soundabout」(米)、「Stowaway」(英)、「Freestyle」(豪)、など様々なネーミングがなされたが、訪日外国人の口コミなどによって世界的に「Walkman」の認知度が高まったことから、結局は統一されることとなった。後に「Walkman」は、広辞苑やOxford English Dictionaryにも掲載されるなど、携帯音楽プレーヤーの代名詞ともなった。
参考文献:ソニー自叙伝 ソニー広報部(1998年)
プレスマン譲りの操作ボタン類。ガシャッと押し込むメカニカルボタン。ボリュームが左右別になっているのが本格的。 |
ヘッドホン端子は2つ。再生専用機にも関わらずマイクが付いているのは、配置的にプレスマンの名残のように見えますが、ホットライン機能用です。デザイン上のアクセントとなっているオレンジのHOTLINEボタンを押すと、テープの音量が下がり、マイクで周囲の音を拾います。カップルで音楽を聴いている最中に会話するためのギミックということでしたが・・・。ちなみに盛田会長のアイディアだったとか。 |
腹ペコカップルによるHOT LINEボタンの使いかた。説明書より。 |
フタを開いたところ。写真のカセットテープはAHFシリーズ。 |
電池は単3電池2本。写真の電池は最近のSTAMINAアルカリ乾電池。3V外部電源端子もあります。 |
使用するテープによって切換えます。ノーマルならHIGH。 |
TPS-L2にはロットにより、いくつかバリエーションが確認されています。
ロゴマークの違い。左から、ロゴなし(初期)、シールロゴ(中期)、新ロゴ(後期)。 |
専用カバーの違い。左から、フタあり(初期)、フタなし(後期)。フタは邪魔だったということでしょう。本来、本体を守るはずのこのカバーがとんだ曲者で、長期間カバーを付けていると本体の銀色の塗料が剥がれるという悲劇を生みました。現存するほとんどのTPS-L2の銀色の部分が汚れているように見えるのはそのため。 |
ヘッドホン端子の刻印の違い。2つのヘッドホン端子には遊び心か初期ロットではGUYS & DOLLSと刻印されていましたが、間もなくAとBに変更されました。おそらくシリアル番号30,000番ぐらいまでがGUYS & DOLLSになっているものと思われます。 |
背面STEREOロゴの違い。左から、白(最初期)、凹モールド。 |
再生ボタンマークの違い。左から、プレスマン、緑(最初期)、黒。 |
映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のスターロード(クイル)が愛用していたウォークマンは後期型の新ロゴタイプ。ちなみにスターロードのヘッドホンはMDR-3L2ではなくMDR-5aのようです。
左はパチモン感が半端ないけど雰囲気十分なヘッドホン付きMP3再生可能TOY(amazon)。右のヘッドホンはMDR-5aにそっくりのスターロードスタイルウォークマンHi-Fiステレオイヤホンヘッドセット(amazon)。 |
その後、様々なメディアのウォークマンが発売されました。
・初代FM WALKMAN : SRF-40 (1980) ←ラジオ?
・初代DISCMAN(後のCD
WALKMAN) : D-50 (1984)
・初代DAT WALKMAN : TCD-D3 (1990)
・初代MD WALKMAN :
MZ-1 (1992)
・初代Memory Stick WALKMAN : NW-MS7 (1999)
・初代Flash Memory WALKMAN
: NW-E3 (2000)
・初代HDD WALKMAN : NW-HD1 (2004)
カセットウォークマンは小型化されていきました。
カセットウォークマン最終型WM-EX651 (2004)との比較。 |
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SONY ステレオカセットプレーヤー Walkman TPS-L2
標準価格 33,000円 (1979年当時)